「過労死ライン」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。労災認定の目安とされるのが、時間外・休日労働が月80時間という水準。実は法律は、このラインを超えて働いた社員に対して「医師による面接指導」の仕組みを会社に義務づけています。しかも、これは50人未満の会社にも適用される義務です。この記事では、80時間の意味と、会社がやるべきことを産業保健師の視点で整理します。
「月80時間」で何が起きるのか
労働安全衛生法は、時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合、会社は医師による面接指導を行わなければならない、と定めています。あわせて会社には次の義務があります。
- 労働時間の状態を客観的に把握すること(タイムカード・PCログ等)。管理職や裁量労働制の人も対象です
- 月80時間を超えた労働者に、その情報を本人へ通知すること
- 申出があったら、遅滞なく面接指導を実施し、医師の意見を聴いて、必要なら就業上の措置(労働時間の短縮・配置転換など)をとること
※ 研究開発業務で月100時間超の場合などは、本人の申出がなくても面接指導が義務になります。
健康を守るラインは「月45時間」──80時間は“危険水域”
ここで大事な整理をひとつ。厚生労働省は、時間外・休日労働時間と健康障害リスクの関係を次のように示しています。月45時間以内ならリスクは低く、長くなるほど徐々に高まり、月100時間超(または2〜6か月平均で月80時間超)で「高」——この水準は、業務と脳・心臓疾患(心筋梗塞・脳卒中など)の発症との関連が強いと評価される、労災認定の目安でもあります。
つまり80時間は「ここまでなら安全」というラインではなく、すでに危険水域。面接指導はいわば最後の安全網で、健康障害を防ぐ本来の目標は「月45時間を超えない」働き方です。月80時間は単純計算で1日4時間残業×20日——睡眠時間を削らないと成立しない働き方だと考えれば、実感に合うはずです。
会社がやるべきこと──実務の流れ
- 労働時間を毎月集計し、80時間超を洗い出す締め日の後、できるだけ早く。ここが遅れると以降が全部遅れます。
- 本人に通知し、面接指導の申出を案内する「あなたは先月○時間でした。面接指導を受けられます」と明確に伝えます。申出しやすい雰囲気づくりが大切で、「申出=面倒な人」という空気があると制度は機能しません。
- 医師の面接指導を実施する産業医(いなければ地さんぽ等)が、疲労・睡眠・メンタル面を確認します。オンライン実施も一定の要件下で可能です。
- 医師の意見を聴き、働き方を調整する「残業制限が必要」「深夜業を減らすべき」等の意見をふまえ、実際に業務量・分担を見直します。働き方が何も変わらなければ、面接指導は「実施した」という記録づくりで終わってしまいます。ここが本体です。
- 記録を残す面接指導の結果と講じた措置は記録し、5年間保存します。
「申出がないから大丈夫」は危ない
面接指導は本人の申出が起点ですが、申出がなかったから会社の責任がなくなるわけではありません。80時間超が常態化しているのを知りながら放置すれば、安全配慮義務違反を問われ得ます。実務的には:
- 80時間を「面接指導のライン」ではなく「働き方を直すアラート」として使う
- 特定の人に残業が偏っていないか、毎月の集計で見る(偏りは業務設計の問題です)
- リスクが高まりはじめる「月45時間」を社内の管理ラインにして、早めに声をかける会社も増えています
genba oh の考え方
面接指導を「やったことにする」のは簡単です。でも本当に会社を守るのは、長時間労働の偏りを早めに見つけて、燃え尽きる前に手を打つ運用。genba oh は、毎月の時間把握〜声かけ〜医師につなぐ流れを、中小企業で無理なく回る形に設計するお手伝いをします。
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