「労災」と聞くと、機械への巻き込まれや墜落を思い浮かべるかもしれません。でも実際に休業4日以上の労災で最も多いのは「転倒」——歩いていて滑る・つまずく、あの転倒です。そして業務上の疾病の代表が腰痛。どちらも「派手な事故」ではないぶん対策が後回しになりがちですが、従業員の高齢化とともに確実に増えています。この記事では、中小企業の現場で今日からできる対策を、産業保健師の視点で整理します。
なぜ「転倒・腰痛」なのか
厚生労働省の労働災害統計では、休業4日以上の死傷災害のうち転倒が最多の割合を占め続けています。背景にあるのは働く人の高齢化です。加齢とともに、筋力・バランス能力・視力は少しずつ低下します。同じ職場・同じ段差でも、10年前より転びやすくなっている——これが現場で起きていることです。
そして転倒は「たかが転んだだけ」では済みません。高年齢の労働者では骨折など重いけがになりやすく、休業も長引きがち。人手がぎりぎりの中小企業にとって、ベテランの長期離脱は経営問題そのものです。
転倒対策──「気をつけて」では減りません
転倒対策で最初に言いたいのはこれです:「注意喚起だけでは減らない」。人の注意力に頼る対策は必ず破られます。効くのは環境と仕組みの改善です。
環境を直す(まずここから)
- 4S(整理・整頓・清掃・清潔)——通路にモノを置かない。床の水・油はすぐ拭く。配線は床に這わせない。転倒対策の半分は4Sで終わります
- 段差と照度——小さな段差ほど危ない(大きい段差は認識できるため)。段差の解消・明示(トラテープ)、暗い通路・階段の照度アップ
- 滑りにくい床・靴——水や油を使う現場は防滑靴を支給品に。靴底のすり減りチェックも忘れずに
人の側の備え
- 体力・バランスのセルフチェック——片足立ちテストなどで自分の転倒リスクを「見える化」すると、行動が変わります
- 時間帯と急ぎ——転倒は「急いでいるとき」「ポケットに手を入れているとき」に起きます。走らない・手すりを持つ、を職場のルールに
腰痛対策──「持ち上げ方」より「持ち上げない」
腰痛対策というと「正しい持ち上げ方の教育」が定番ですが、実は優先順位が違います。第一は「人力で持ち上げる場面そのものを減らす」ことです。
- 作業をなくす・機械に置き換える台車・リフター・スライディングシートなどの補助具。介護・運送・製造で導入効果が大きい領域です。
- 作業のやり方を変える重いものは2人で。置き場所の高さを腰〜胸の間に(床置き・高所置きをやめる)。長時間の中腰・同一姿勢を区切る。
- それでも残る負担に教育・体操膝を使う持ち上げ方、作業前のストレッチ。順番として最後、が正解です。
高齢化対応は「エイジフレンドリー」の視点で
国も高年齢労働者の安全衛生対策として「エイジフレンドリーガイドライン」を示しており、中小企業向けには職場環境改善の費用を支援する補助金制度が設けられている年度もあります。「ベテランに長く元気に働いてもらう」ための投資は、採用難の時代にはリターンの大きい投資です。
genba oh の考え方
genba oh は「現場の産業保健」が看板です。転倒・腰痛は、現場を見て、作業を見て、初めて有効な対策が打てる領域。チェックリストによる現場点検から、衛生委員会で使える教育資料、ハイリスク者(健診結果×作業内容)の見立てまで、産業保健師が実務で伴走します。
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